毎日使うキッチンは、住まいの中で使い勝手が求められる重要な箇所。動線やレイアウトをよく考えて計画しないと、せっかくの新築なのに使いにくい、狭くなったなど後悔することになりかねません。
選択肢が多い箇所だけに迷ってしまうキッチンのプランニング。各メーカーには、さまざまな仕様やオプションもありますが、今回はキッチンの種類やレイアウト、動線、収納など基本的なプランニングについてご紹介します。
1.キッチンの場所を考える~リビングとダイニングとの関係~
新築する際、キッチンの具体的な仕様を選ぶ前にまずLDKの中で、キッチンを、どの場所に、どの向きで、配置するかを考えていきましょう。キッチンの配置は、リビング・ダイニングに対してオープンになっているか、クローズになっているかによって、大きくふたつ分かれます。
クローズドキッチン
クローズドキッチンとは、キッチンが1つの空間のように壁で囲まれた独立したキッチンの配置です。
オープンキッチンが昨今の流行となる中、あまり見かけなくなってきたクローズドキッチンですが、実はメリットも多く、クローズドがいい!とこだわる方もいらっしゃいます。
〈メリット〉
・調理中のにおいや汚れがリビング・ダイニングに流れこまない → ダイニングを整然と保ちやすく落ち着いて食事ができる
・調理に集中できる → 料理にこだわりがあるひとにおすすめ
・外からの視線が届きにくいので、実用性重視の収納ができ、また多少雑多にしていても気にならない
・壁が多くなるので、収納量が増す
〈デメリット〉
・キッチンが独立しているので他の家族とのコミュニケーションがとりにくい
・ダイニングまでの動線が長くなり配膳がしにくい
・独立した空間を確保しないといけないので、面積をとる
オープンキッチン
オープンキッチンとは、リビング・ダイニング空間と一体になった開放的なキッチンの配置です。現在ほとんどの新築住宅では、この見せるタイプのオープンキッチンが選ばれていて人気のレイアウトです。
■壁付け型オープンキッチン
キッチンが壁に沿って配置されたオープンキッチンです。
〈メリット〉
・視線が壁に向かうので調理に集中しやすい
・オープンキッチンの中では、調理中の汚れが広がりにくい
・ダイニングとの一体感が得られやすく、面積も取らない
〈デメリット〉
・背中越しに家族がいると寂しさを感じやすい
・調理中のにおいが広がりやすい
■対面型オープンキッチン・ペニンシュラ型
ペニンシュラとは「半島」のこと。キッチンの左右の片側だけが壁に面したキッチンで、壁からキッチンが突き出たような形からペニンシュラキッチンと言われています。
キッチンはリビング・ダイニングのほうに面しているので対面型のオープンキッチンになります。
〈メリット〉
・家族とコミュニケーションをとりながら調理できる
・リビング・ダイニングに目が届くので育児にも有利
・ダイニングへ配膳しやすい
〈デメリット〉
・調理中の汚れや臭いがリビングまで広がりやすい
・調理中の手元やキッチン、収納部が周囲から見える
■対面型オープンキッチン・アイランド型
アイランドは「島」のこと。LDKの中で、島のようにキッチン自体が独立した配置になっています。開放的な空間の真ん中にキッチンがあるので、キッチンの存在感があり主役にもなります。
2.キッチンの型について
キッチンの配置のイメージがついたところで、システムキッチン本体の形状について、さまざまな型があるのでご紹介します。
I型キッチン
カウンターの中にシンクとコンロが一列に並んでいます。また省スペースでほかの型に比べコストも抑えられます。前述したようなオープンキッチン、クローズドキッチンさまざまなレイアウトに対応できるので、もっともポピュラーな型のキッチンと言えるでしょう。カウンターの幅もいろいろサイズがありますが、だいたい直線で270cmを超えてくると動線が長くなり使いづらくなるので注意しましょう。
Ⅱ型キッチン(セパレート型キッチン)
シンクとコンロを別々にし、平行に配置したキッチンです。オープンキッチンに採用するとおしゃれと実用性を兼ね備えたレイアウトになるでしょう。シンクがある方をアイランド型に採用し、コンロがある部分を壁付けに配置することで、油汚れがリビング・ダイニング側に飛び散ることが少なくなります。また換気扇も壁に面するので、Ⅰ型システムキッチンを採用したアイランド型オープンキッチンにするよりも、より開放的な空間が実現します。ただ体の向きを前後に変えて調理しないといけないため、高齢者などには体への負担があるかもしれません。
L型キッチン
シンクとコンロをL字型に配置したキッチンで、動線が短くなるため調理における作業効率がもっとも高くなります。ただ角の部分がデッドスペースになりやすく、また家電や収納スペースの配置に迷いやすいので、それをふまえた上でうまくレイアウトすれば実用性の高いキッチンになります。部屋の角に合わせてすべて壁付けにしたり、一部を壁付けにしたり、さまざまなレイアウトが考えられます。
U型キッチン(コの字型キッチン)
シンク・コンロ・冷蔵庫など作業動線がU字型になっているように見えるキッチンですが、国内のキッチンメーカーでカウンタートップがこのU字型になっているのはほとんどありません。キッチン空間が独立したスペースになりやすく作業スペースも広くなりますが、場所をとり高価になりやすいデメリットがあるので、あまり国内では普及していないのが現状です。ただ、L字型システムキッチンと造作カウンターを組み合わせて、U字型に配置するなどしたレイアウトはお店のようなオリジナリティのあるおしゃれなキッチン空間となるでしょう。
3.キッチンのレイアウトの基本
ワークトライアングルについて
使いやすいキッチンの動線について、基本的な考えとして「ワークトライアングル」というものがあります。これは「シンクの中心」「コンロの中心」「冷蔵庫の中心」を頂点とする三角形のことです。この三角形の長さが長いと無駄な動きが多くて使いにくくなり、短すぎると収納や作業スペースが不足するといわれています。ではワークトライアングルの適切な長さはどのくらいでしょうか。
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- シンクの中心からコンロの中心まで 120~180cm
- シンクの中心から冷蔵庫の中心まで 120~210cm
- コンロの中心から冷蔵庫の中心まで 120~270cm
三辺の合計は『360cm以上600cm以下』が適当とされています。またこの三角形は正三角形に近い方がより使いやすくなります。一辺の長さは具体的に言うと前述のとおりですが、大まかには「2,3歩で移動できる長さ」ととらえましょう。近年主流のI型キッチンなどを採用すると、きれいな三角形を描けることも難しいですし、必ずしもこの長さでないといけないことはありませんが、使いやすいキッチンを目指すなら、意識してみましょう。
キッチンの通路幅について
キッチンの通路幅の目安は、90~120㎝といわれます。二人以上で調理する場合は、すれ違いができるように100㎝以上にしましょう。ただ幅が広ければいいというわけでもなく、前述したワークトライアングルの長さの目安から外れてしまうと、動線が長すぎて不便さを感じるようになるので注意が必要です。またシステム収納や食器棚の横に冷蔵庫を設置した部分は、一般に冷蔵庫の方が奥行きが深く、冷蔵庫前の通路幅が狭くなります。
キッチンに関連するアイテムの配置も考える
新築でキッチンを選ぶ際、キッチンそのものについて仕様などを考えるのは当然ですが、冷蔵庫をはじめ、そのほかの調理家電についても、設置する位置をあらかじめ想定しておくことは重要です。そうすることで、後でコンセントの数が足らない!と後悔することも減ってきます。また調理器具や調味料、食器や食品ストックなど、各家庭で収納量や収納方法も異なるので、事前に考えておくと失敗が少ないでしょう。調理したあとは、配膳→食事→片付け となるので、ダイニング家具の配置まで一連の動線を想定しておきましょう。
4.キッチンのサイズについて
システムキッチン本体のサイズ選びでは、「間口(幅)」「奥行き」「高さ」について確認していきます。
キッチンの間口(横幅)
キッチンの奥行き
一般的なシステムキッチンの奥行きは60~70cmです。カウンターをつけたり、造作でカウンターや収納を設ける場合はその分広くなり、約85cm以上になってきます。
ワークトップの高さ
5.キッチン事例
最後に、弊社で施工した新築住宅のキッチン事例についてご紹介します。近年の新築住宅では、キッチンの形状はⅠ型、対面型の配置が主流になっています。Ⅰ型でも、LDK空間内でのキッチンの配置、壁やキッチン周りの腰壁の有無、キッチン腰壁の素材、扉の面材などの仕様が異なると、それぞれキッチン空間のイメージが変わってきます。
・小上がり畳スペースのあるオープンなLDK
標準的な新築住宅のキッチン例。コンロの前に壁があるので、油汚れや臭いが広がりにくくなっています。シンクの前はオープンなのでLDK全体を見渡すことができ、家族とコミュニケーションをとりながら調理できます。キッチンの周りに腰壁が立ち上がっているので、シンクでの作業中も水が床へ飛び散りにくくなります。キッチンの横にダイニングテーブルがあるので配膳や片付けも楽々です。
・落ち着いて食事が楽しめるLDK
間口が狭く縦長のLDK空間。リビングとほどよい距離感でダイニング・キッチンスペースがあります。ワークトップが広めで周りに壁のないペニンシュラ型のオープンキッチン。ダイニングとキッチンが対面になっており部屋としてまとまっているので、落ち着いて調理や食事ができます。リビングで寛いでいる家族の様子もうかがえます。
・素材感にこだわったオリジナルのキッチン
システムキッチンは標準的なタイプですが、周りの腰壁の素材にこだわり、セメント系の板材を貼っています。すっきりシンプルながら素材感があり、ほかにはないオリジナリティのあるキッチンに仕上がっています。空間の真ん中に配置されキッチンの存在感もあるアイランド型オープンキッチンですが、腰壁の立ち上がりとコンロ前のアクリル板を設けており、汚れが飛び散りにくい工夫がされています。
・開放的で明るいオープンキッチンのあるLDK
ワークトップが広くカウンターと一体化したアイランド型のオープンキッチン。キッチンの周りをぐるぐる回れる回遊型のレイアウトになっています。ワークトップが広く両面から使えるので、家族みんなで調理することもでき、お子さまのお手伝いもしやすいでしょう。アイランド型キッチンは換気扇が天井から下りてくるので、せっかくのオープンな空間に圧迫感を与えないよう位置に注意しましょう。
・用と美を兼ね備えたナチュラルなキッチン
キッチンの一方を壁に付けたペニンシュラ型の対面キッチン。コンロの前に壁がないのでリビング・ダイニングとの一体感があります。キッチンの周りに腰壁を回しているので、汚れは比較的飛び散りにくいですが、コンロ前は特に油汚れが前方に飛ばないよう、アクリル板をオプションで取り付けています。腰壁の背面(ダイニング側)は、塗り材を施しているので、ナチュラルな素材感になっています。腰壁を少し高めにし、ダイニングテーブルの上に横長のニッチをとっていて、調味料やカトラリーなどちょっとした収納場所となり便利です。
腰壁の背面(ダイニング側)に収納やカウンターなどをとる場合、キッチンメーカーでシステムキッチンと一体化した面材など同じタイプのものを選ぶこともできます。すっきりまとまったキッチンになりますが価格が高くなりがちなので、この例のように造作でキッチン周りを制作すれば、希望を叶え価格を抑えながらオリジナルのキッチンを造ることもできます。
・料理好きのための主役キッチン
LDKの中心にキッチンを配置したオープンキッチン。キッチンに立って、右手にはダイニングスペース、左手にはリビングがあるので、孤独感を感じることなく調理ができます。家族みんなで調理することもできるアイランド型キッチン。キッチンの前には大開口のサッシがあり、外の景色を眺めながら調理ができます。料理好きの方、楽しみながら調理したい方、料理でコミュニケーションを図りたい方などにおすすめのレイアウトです。
コロナ渦で在宅時間が増え、ますます家での食事や料理が注目され見直されています。キッチンはたくさんある仕様やオプションにばかり目が行きがちですが、新築する際にはまず自分たちの家族構成やライフスタイルに合ったキッチンスタイルを見つけてプランニングするようにしましょう。
設計・インテリアコーディネーター F.A